苺味の幸福
「・・・え、いいの?全部食べちゃうよ?」
「どうぞご勝手に」
そう告げると、芭蕉さんは上機嫌で次々と駄菓子を口に入れていく。微かに漂う甘い香り。
「んー美味しい!幸せーv」
安い幸せだ、と思うが口にするのは憚られた。幼子の様な破顔した姿、それが無性に尊いものに思われて。
「・・・? 私の顔になんかついてる?」
僕の視線に気付いた芭蕉さんが顔を上げる。
「いえ。芭蕉さんが虫歯になって悶え苦しむところを想像してました」
「ちょっ、なんか弟子が怖いこと言い出した!!ちゃんと歯ぐらい磨くよ!!」
まったくもう、と言いつつまた駄菓子を食べると、元の笑顔にすぐ戻っていく。くるくると、空模様より容易く変化する表情。いつになってもそれは変わらない。昔から、そしてきっと、この先も。
「・・・本当に、見てて飽きないですね」
「?」
そんな姿を、すぐ傍で見られること。
胸の奥があたたかくなる、それが僕に与えられた幸福なのだろう。
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